小規模多機能型居宅介護みんなの家・稲城長沼
【一日一心】里帰り
YO、みなさん、こんにちは。
みんなの家・稲城長沼の遠足同好会、隊長の王です!
八月が静かに幕を閉じ、九月の扉がそっと開きました。
長く続いた夏は過ぎ去り、涼やかな秋の気配がいつの間にか足元に忍び寄ってきます。
みなさんは元気に過ごされていますか。
私は昔から「一日」という日を特別に感じています。
どんなに大変なことがあっても、この日を境に気持ちを切り替え、また歩き出せる気がするからです。
八月の終わりには、孫に会いに来ていた両親を見送り、私は慌ただしい日常へ。妻は夏休みを終えて、看護学校の実習に向かいました。
「どうして今から看護学校?」と尋ねると、彼女は少し照れながら答えました。
三十歳の今が最後のチャンスかもしれない。将来のため、両親のため、そして子どもの未来のために。
その瞳に宿る覚悟を見て、私は二十歳の頃に抱いた夢を思い出しました。
世界中の花を見て回りたいと願っていたあの日。
けれど、いつしか先延ばしにしていた夢は、指の隙間からこぼれる砂のように消えてしまいました。
施設のご利用者様も同じでした。かつては皆、夢を抱き駆け回っていた。
でも、今やりたいことを尋ねると口を揃えて言います。
「生まれ育った土地を、もう一度この目に焼き付けたい」と。
その言葉を胸に、私たちは心に決めました。利用者様の願いに寄り添い、共に旅に出ようと。
行き先は山梨県。懐かしい富士山が、きっとみんなを待っている。
期待
朝8時。施設の玄関に差し込む光はやわらかく、空気はひんやりとして清々しい。
今日は「みんなの家・稲城長沼」の遠足同好会の初デビュー。二人のご利用者様にとっては30年ぶりの里帰りです。
「もう一度、富士山を見たい」
「地元の料理を味わいたい」
長年胸に秘めた小さな夢を叶える日。
車内では、懐かしい思い出話がゆっくりと花を咲かせていきました。
思い出の道のり
車窓には緑豊かな山々、澄んだ川の流れ。
ご夫婦の利用者様は手を取り合い、景色を見つめます。
「昔はここ、何もなかったね」
「そうだね。当時は山ばかりだった」
笑い合うその姿は、まるで50年前に時を巻き戻したかのよう。
「上野原市!懐かしいなあ」
「大月だ!もう富士吉田だね!」
その声を聞きながら、胸が熱くなりました。記憶は色あせず、心に深く刻まれているのです。
富士山遺産センター
山梨に到着して最初に訪れたのは「富士山遺産センター」。
大きなスクリーンに映し出される雄大な富士山に、皆さんは思わず息を呑みました。
「二十歳の時、富士山に登ったなぁ」
「若い頃は私も登ったのよ」
目を輝かせるその表情に、私の胸にも温かさが広がります。
山梨名物 ほうとう料理
お昼は、湯気の立ちのぼるほうとう鍋。地元の野菜やお肉の旨味が溶け合い、心までじんわり温まります。
「昔は家族でよく食べたのよ」
「あなたはいつも一番に食べてたわね」
ご夫婦の何気ないやりとりに、愛の形を見ました。
それは永遠に新鮮さを保つものではなく、四季を共に味わいながら寄り添い続けること。
そのとき、ケアマネジャーが七味を加えながら言いました。
「人生の七味」をご存じですか?
うらみ、つらみ、ねたみ、そねみ、いやみ、ひがみ、やっかみ。これらのスパイスがあるからこそ、人生は深みを増すのです。
苦味や辛さがあるからこそ、人生は深みを増し、豊かな味わいになるのです。
今日、皆さんの笑顔を見て、その大切さを改めて感じました。
富士山と河口湖
午後は大石公園へ。湖面に映る富士山と流れる雲。
ご夫婦は手を取り合い、そっと見つめます。
「昔と変わったね」
「でも富士山は変わらないね」
その言葉の後ろに寄り添う笑顔とぬくもり。
愛と絆があれば、どんな困難も乗り越えられる――そう教えてくれる光景でした。
秋分
今日は秋分の日。
歩き続けるうちに、季節も人生もあっという間に過ぎていきます。
利用者様も、いつか人生の最後を迎える日が来る。
そのときまでに叶えられなかった夢は、私たちが一緒に叶えて差し上げたい。
河口湖で記念写真を撮るとき、外国の方から「家族ですか?」と声をかけられました。
自然と皆さんは答えました。
――「はい、家族です」
「みんなの家・稲城長沼」は大家族。
利用者様もスタッフも、みんな愛おしい存在です。
ここは、笑いの花が咲き、人生の香りが広がる、甘くて温かい家。
そんなことを改めて感じた秋分の日の遠足でした。

